シン・ゴジラ感想


今日はシン・ゴジラを見てきました。


ネット上での評判が高かったので満席気味かなとも予想しましたが、実際のところ地元の劇場ではけっこう空いてて、言うほどブームでもない?と思いきやパンフレットは完売だったので、まあ興行側の予想を超えてヒットはしてるんでしょうね。


内容的には、「怪獣が好き」「怪獣が暴れまわる姿が好き」「兵器も好き」「兵器が怪獣と戦ってる場面も好き」という子供心の熱い欲望を、大人の視聴にも耐えるリアルなドラマに仕上げてみました、といったところ。怪獣映画らしい派手なシーン・ケレン味の強いシーンは(要所要所にはあるものの)全体の尺の長さからすると控え目で、ゴジラと戦う人々の職業人的なドラマの渋い味わいが多くを占めており、むしろ子供が見ると(年齢にもよるでしょうが、特に未就学児などは)退屈してしまうかもしれません。


私個人はめちゃくちゃ楽しめましたが、上記のような職業人ドラマを面白く感じない人、そもそも怪獣がテーマであることをバカにする人、ケレン味の強いシーンを多く期待する人(子供含む)等には、あまり合わない作品かもしれません。


以下、ネタバレあり。




端的に言えば、行政ドラマ仕立ての怪獣映画、ということになるでしょうが、たまたま今回はそういう風に仕立てることにしたというよりも、初代ゴジラのリメイクを今やるなら必然的にこうなるよね、みたいな納得感があります。


怪獣映画の看板を掲げる以上、観客は当然「怪獣が現れて大きな被害をもたらすも、人々がこれを撃退する」という筋書きを想定して劇場に来てるわけです。ある意味、話のオチは最初からバレてるようなもので、それでもなお観客の注意を引き付け続けるには、そのオチに至るまでの事態の推移に興味を引かせるほかない。
その前提に立つと、現代日本の“怪獣の襲来を想定していない”行政および社会を舞台として設定するのは、観客の興味を引かせるのに非常に都合がいいんですね。実際にゴジラが現れれば、決定的な撃退法はおろか基本的な対応方針すら事前に用意されていない行政も社会も浮足立つし、対応は後手後手で、必死に打開策を模索しなければならない。その渦中にいる人々を物語のメインにすることで、観客は「これからどうなるんだろう・どうするんだろう」と固唾を飲んで見守るような気持ちで事態の推移に集中するようになります。*1そのように観客を集中させ続けるよう仕向けてるからこそ、絵面的にはウルトラスーパー地味なあのクライマックスシーンまでも、手に汗握って鑑賞するシーンとして成立するわけです*2
なので行政ドラマ仕立てであることは、単にそういう風味だということではなく、この作品を成立させるためのメインコンセプトなわけです。無論、観客の興味を引かせるには別の方法もあって、SFチックな兵器を登場させたり、怪獣を複数登場させて戦わせたりなど、それこそゴジラシリーズが今まで色々とやってきてるわけですが、SFファンや怪獣ファン以外の大衆へ訴求することを考え、またゴジラ単体と人類の初遭遇という初代ゴジラの構図に倣うと、必然、こういうコンセプトになります。そして現代日本を舞台にすることで背景説明の必要が省かれる*3ことも、より多くの観客に受け入れやすい素地となっているのではないでしょうか。


映像化された政治描写の緻密さがこのコンセプトを非常に強く裏打ちしていることもまた見逃せません。自衛隊から首相までの指揮系統について描写する作品は少なくありませんが、本作はそれ以外の役所の動きにまできちんと描写が及んでおり、そのいずれもが“それっぽい”感じ*4になってます。後半になると役所内の描写は巨災対という専従チームに重点が置かれるようになりますが、同時に外交問題も並行して描写することにより、観客の視野が専従チームにだけ絞られてしまわないようバランスが取られていますよね。このへんは本当に監督の技量がすごいなーと思うところです。


そして肝心のゴジラの描写についても、海中にいてまだハッキリと姿が確認できない恐ろしさ、上陸時の生々しい気持ち悪さ、直立した雄々しさ、熱線を放つ神々しさ、等々、およそ怪獣描写に期待される要素を網羅していて、さすがだなーと思います。いったん海中に戻ったり、東京駅付近で眠ったりなど、冷静に考えるとその行動は割と作劇・物語の都合に合わせられてますが、行政ドラマパートの“それっぽい”感じが強力なおかげで、ご都合主義展開の印象が薄まっているのも、非常に巧い作りだなと思います。


生物学の専門家が「変態」と言うものをそれ以外の人々が「進化」と言うとことか、爆撃時の米軍通信で「Payback time!」みたいな砕けた通話するとことか、ポンプ車部隊のコードネームが「アメノハバキリ」だったりとか、細々した点についても「あーオタクならそここだわりたいよねーそうよねー」みたいなネタも多く、繰り返し見ても楽しめそうなあたり、エヴァっぽいなーつーか庵野監督作品だわーみたいなねw


総評としては、派手なドンパチに終始しないという点で怪獣映画としては地味げですが、行政ドラマの徹底した作り込みが地に足の着いた納得感のようなものに繋がり、また地味な絵面にも感動を与え、数少なくとも派手なシーンを際立たせている、絶妙な出来栄えの映画ですね。これ見ちゃったら、もうシン・エヴァが完成しなくても許しますわw

*1:まあ、パニックムービー的な怪獣映画の王道かもしれません。

*2:あのクライマックスは、自衛隊ヘリの初攻撃の(ハプニングによる)中断、決定的と思われた米軍爆撃に対する予期せぬ逆襲、主要閣僚の不慮の全滅、核使用のタイムリミット、凝固剤および車両手配のための奔走、などなど、先立つシーンが巧みに仕込まれているからこそ、観客にとって「頼む〜今度こそ何事もなくうまくいってくれ〜」と“熱く”感じられるのです

*3:現代日本に存在しない特殊な組織や兵器を登場させるには、そのための説明が必要なうえ、どこまで何ができるのかの按配を観客に納得させる困難さがあります。迂闊に秘密兵器なるものを登場させてしまうと「どーせまた別の秘密兵器があって、その真打ちが倒すんでしょ」と白けてしまいかねません。

*4:私は役所の中の人ではないのでホントのところはよくわかりません