画像は銃刀や麻薬と同列か?

児ポ法(児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び
児童の保護等に関する法律)は3年おきに見直し時期が
来るんですが、必ず議論になるのが「被写体の実在しない
絵を規制対象に含めるか」という点と「単純所持を処罰
すべきか」という点。


もともと児ポ法の趣旨は、児童を被写体として記録された性的な
画像・映像が流布することによる児童の精神的被害・人権侵害の
予防・救済を目的としています。つまり被写体となった児童個人
を守る目的なのだから、「被写体の実在しない絵を規制対象に
含めるか」などというのは議論の余地無く“含めない”のが道理。
それでも規制したい人達は社会的悪影響だとかモラルの問題
とか持ち出したりしますが、それらについては猥褻図画頒布や
有害図書指定で対処できる話。見たくない人の権利なんかも
ありますが、店舗でならゾーニングの徹底、ウェブならフィルタ
リングソフトの導入で棲み分け可能。
総じて、既存の制度と技術で解決できるものであって、改めて
児ポ法で取り締まる必要は全く無い。このへんまではヲタの常識
でしょうか。


で、識者とやらの座談会を見ると、上述のような基本すら踏まえない、
識者とは名ばかりの素人が駄弁ってるだけって印象を受けます。


ここからが本題。


もう1つの点、「単純所持を処罰すべきかどうか」について。
上の座談会でも触れられているけど、感情ベースだと自然と
「実在児童を被写体とした画像・映像なら(目的を問わない)
所持でも取り締まっていいだろう」と考えがち。自分だって
そう考えます。
しかし現行の法体系やその運用の実態を考えた場合、本当に
「所持しているだけで処罰」という法のあり方が妥当であると
言えるのでしょうか。


日本では、持ってるだけで処罰されるのは銃・刀剣および
一部の薬物です。これらは製造や入手がとても困難であると
言えるでしょう。少なくとも一般人が意図せずうっかりと
手にしてしまうようなことはありません。これらに比べて
(残念なことですが)児童を被写体としたポルノというのは
非常に容易に入手できてしまうという実情があります。
もし本人に入手・所持の意図が無かったとしても、何と無しに
メールを開いたらHTML形式のメールで、そこに埋め込まれた
画像が海外のアダルトサイトに掲載された児童ポルノだった
場合、ブラウザのキャッシュ機能で勝手にローカルのHDDに
保存されてしまいます。後日、そのアダルトサイトが摘発
されて、そこのウェブサーバのログからアクセスした者が
追跡された場合、そのように不作為でダウンロードして
しまった人まで容疑者扱いになります。


上の座談会では、編集部の意見として、「意図が無かった
ことは容易に証明できるはず」とありますが、“単純所持の
処罰”というのは所持の意図や目的に関係なく(銃刀や麻薬の
場合と同様に)罰せられるわけですから、弁明は無意味。
仮に、意図の有無を考慮する条文として制定されたとしても、
容疑が容疑だけに、痴漢冤罪と同様に、無実が証明できても
社会的地位を害する可能性は高いと言えます。


そのような容疑が、ダウンロードの有無などという、誰もが
過失で関わってしまいかねない根拠で立件され、あまつさえ
挙証責任が容疑をかけられている側に求められるというのは、
現行の法体制からすると異常なことです。


警察が無茶な運用さえしなければ問題なかろうという意見も
ありますが、かつて秋葉原では一般的な工具の携帯でさえ
軽犯罪法でしょっぴいてたという実績を踏まえると、こんな
立法をすれば恣意的な拡大・援用による無意味な(=児童
の救済や治安の向上に何の貢献もしない)検挙を増やす
だけというのは想像に難くないでしょう。


児童保護団体のいくつかは、現行の児ポ法は被害児童の
事後ケアについての整備が進んでおらず、その面で本来の
法の目的がきちんと達成できていないとの指摘もあり、
これ以上の罰則強化に踏み込むよりは、事後ケア機能を
強化することを優先すべきとの声も聞かれます。


別に「所持を認めろ!」と言っているわけではありません。
実在児童の人権侵害は深刻な問題ですし、許せない犯罪だ
と思います。擁護なんてとんでもないことです。
しかし、そこで感情論に流されて拙速に単純所持罰則化
を進めてしまったら、無実の人がちょっとした過失で
自身の社会的地位を著しく害するような罪状の容疑を
かけられる世の中を許容することになります。


自称“識者”の方々は、実運用上でこういった弊害が
生じうることをどこまで認識しているんでしょうか。
もし本当に立法化されたとしたら、まっさきに彼らの
ところに罠メールが集中するかもしれないのに。