理想という名の妄執

なんかまた単純所持禁止派の主張が報じられてる件
あいかわらず印象操作が酷いですねいろいろと。
「日本は米、露に次いで児童ポルノサイトが多い」?最新の調査(pdf)では、1位がドイツ(2139件)、2位がアメリカ(560件)で、日本は12位(6件)らしいけど?
児童ポルノを持っているだけでは「個人で楽しむため」と見なされて取り締まれない」?単純所持禁止が弊害を生じまくるから見送られてるんだろうが。いい加減にしてくれ。

 
一部では「この女性の手記は捏造なんじゃないの?日本ユニセフだし」みたいな意見もあるようですが、この女性の立場を想像してみるに「勇気を出して苦しい胸中を明かしたのに、実名で名乗り出なければ信じてもらえないなんて!」という酷いセカンドレイプになるので、そういう心無いことを言うのはやめましょう。「そのようなセカンドレイプ論を誘発することでこの手記そのものの信憑性に対する疑義を封殺する戦略だ」という見方もできるでしょうが、確証の無い陰謀論を口にするのは周りの心象を悪くするだけなので、賢明な人ならば避けるべきです。

 
児ポ法に単純所持禁止を盛り込む必要性の根拠としてこの手記を挙げてきたことについては、「単純所持禁止を実施してもこの女性の心は救われないだろう」と言っておくのが適切でしょう。非常に突き放した言い方かもしれませんが、本質的にはこの女性を苦しめているのは“あの画像がどこの誰の手に渡ってしまっているかわからない”という不安であって、仮に単純所持禁止の実施によってその画像がこの世から一切消えてなくなったとしても、そのことを立証することは(悪魔の証明だから)できないわけで、この女性の不安を完全に拭い去ることはできません。現実的にも、銃刀法違反や麻薬取締法違反のニュースが途絶えないことを考えれば、単純所持禁止によって問題の画像が完全に無くなるということは期待できないでしょう。まして、“誰かにその画像を見られて、覚えられてしまっているかもしれない”恐怖に関しては、一度流通してしまった以上、後から消去したところで原状回復できるものではありません。
こういったことから、被害者を安心させる目的で単純所持禁止を進めるのは間違いです。その目的でなら、まずは性犯罪被害者に対する差別や偏見を無くし、性犯罪被害者が決して後ろ指さされることのないような社会を作ることこそ正しくあるべき姿です。性犯罪に遭ったことが本人に何ら過失の無いことと認識され、その意味では交通事故被害者などと同列に扱われるような立場になれば、被害者らはそもそもそのことに負い目を感じる必要は無くなります(※もちろん当該性犯罪の犯人は殺人運転手と同様に厳しく裁かれるべきです)。すぐにでも可能な施策としては、この問題を必要以上に負担に感じて気を病まないよう被害者達への心のケアをしっかりと施すことです。
そういう活動こそ被害に遭った人たちを真に救う手立てであると思うのですが、こういった被害者らの存在を単純所持禁止を推進するための御旗に使うことは「あなたの受けた被害は大変なことなのです!」と逆に被害者らの傷口を広げるようなことになってはいまいか、と心配するところです。

 
このような被害者を増やさないためにも単純所持禁止を、という主張もあるでしょうが、それならば流通の元を厳しく取り締まっていくことから始めるべきでしょう。そもそもそのような画像は平穏に暮らしている限り決して作成されるものではないはずで、作成されるような特殊なシチュエーションが存在するはずなんです。実際に取締りを行なっている警察には作成された状況についての統計があるはずで、もし援助交際=売春の過程でそのような状況が起こるのなら、学校で生徒に援助交際=売春の問題を教える機会を作りその中でそのようなリスクがあることを大きく取り扱うべきでしょうし、もし家庭内の性的虐待においてそのような状況が起こるのなら、児童相談所などの権限・規模を増強して敏感に察知し迅速に対処できるようにすべきでしょう。なぜなら、画像の流通云々以前に、そのような事件が起きることが大問題なのですから。
果たして我々はそういった根本の問題に対してきちんと対処してきているでしょうか?例えばプチエンジェル事件がなんとなく曖昧なまま幕引きになったこと等を考えると、そういったところに切り込まず、とにかく目に見える形で何かをしたつもりになりたいだけで、安直に単純所持禁止と言っているようにも思えます。

 
いや、根本問題の解決にも尽力するが同時に単純所持禁止もやるんだ、という主張もあるかもしれません。しかし、単純所持禁止による抑止力と、それに伴う社会的コストの増大は、きちんと計算されているでしょうか?抑止力とするには大規模捜査をちらつかせなければダメですし、上掲の元記事には「欧米では所持で100人単位で摘発した国もある」と述べていることからもそのような大規模捜査が期待されているものと推測しますが、海外の大規模捜査では多数の自殺者が出ているということは報じられていませんね。自殺者のうち何割が実際に所持していたかは知りませんが、以前にも書いたとおり少なくとも日本においては捜査対象になっただけで(たとえ無実であり不起訴・無罪判決になったとしても)社会的地位は失墜するので自殺者は無実の人も含めて多数に及びます。自殺しなくとも職を失ったりしますから、結果的に死ぬことになるケースもあるでしょう。
抑止効果を期待したいなら大規模捜査をするしかないし、大規模捜査にやるには「とりあえずアクセスログがあるから家宅捜索」などといった類の乱暴な方法しかないし、そのような方法だと無実の人への嫌疑も多数混じり、彼ら無実の人の社会的地位が失墜して、死ぬ、という流れ。この問題に対策が出てこない限り、単純所持禁止推進派の主張は「死人が出ても構わないから、特定の画像の実存数を減らしたい」と言ってるのと同義です。なんと素晴らしい理想論でしょう。

 
もうこういう美名だけで害悪しかない政策案はとっとと葬り去るべきなんじゃないかとつくづく思います。