♪卵さん〜

エルサレム賞の受賞式典での村上春樹のスピーチの件。


日本の報道だと「村上春樹イスラエル批判」みたいな論調で伝えられてる割に、全文が一向に紹介されないので、これはもしかして(中略)なのか?と思ってたところ、村上春樹の署名記事が公開されました。和訳はこちら


スピーチの中でも明確に述べられているように、ここで主張されてることは単なるイスラエル批判ではないでしょう。国家、宗教、思想、何であれ、人間が人間の便宜のためにシステムを作ったはずが主客転倒しシステムが人々を対立し合わせたり抑圧したりしている、という現状についてもっと多くの人が気付いてシステムに操られることから自由になるべきで、それを訴えるために小説を書いている、と読み取れます。*1


そんなのわかりきったこと、と思う人も少なくないでしょうが、我々はえてして、こういう理屈をわかっていながら自分の身の上のこととして捉えることができません。このスピーチのような抽象的な言辞としてではなく、もっと具体的な実例を示すものとして何らかの物語の形に落とし込んだものを突きつけられて始めて、「もしかして自分もわかったふりをしながら絡めとられているのかも」ということに気付いたりする。そういう物語の寓話的な働きこそ彼の言うところの「真実に光を当てる嘘」であり、そういう創作活動を通じシステムに直面する人々に光を当てることが彼の創作活動の目的なのでしょう。
つまり順序が逆で、彼の個々の作品においてはその主題を我々に突きつけるよう書き上げられており、それらに一貫している意図をこのスピーチで述べたに過ぎない、ということ。このスピーチを読んで「中身が無いなあ」と思ってしまうような人こそ、彼の作品を読んで具体的に何が述べられているのかについて触れるべきなのではないでしょうか。

*1:いちアニオタとしては、これを読んだとき、アイバーマシンに独りまたがってモンスターユニオンと対峙するハルキ・ムラカミという構図が思い浮かびました。