ゲーム脳脳向け研究

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暴力ゲームをプレイすることが他者の苦痛について鈍感にさせるそうで。


そうだよな〜俺もバイオハザードやった後とか夜トイレ行けなくなるもんな〜。


とか茶化して終わろうかと思ったんですが、深刻に受け取る人が居るかもしれないので一応解説。


ここで行なわれてるのは、実験結果には誤りが無くても、それを聞いた人が勝手に誤解するであろうことを期待する印象操作です。確かに、暴力ゲームをプレイした人のほうが感覚が鈍るかのような結果がまとめられていますが、そのことが直ちに「暴力ゲームが有害だ」ということを意味するわけではないことに注意が必要です。重要なことは、ここで観測された効果が、社会的懸念を生じるほどに大きいものなのかどうか、という視点が欠けている(あるいは積極的に無視されている)点。
実験では暴力ゲームをプレイした群とそうでないゲームをプレイした群との間で差を測ったそうですが、もし仮に、アメフトやアイスホッケーの試合を観戦した群と比較したらどうなるか、あるいは格闘技観戦なら、ハリウッドのアクション映画ならどうでしょうか。そういった、暴力ゲーム以外の刺激において同様の効果が観測できる程度のものならば、暴力ゲームだけ取り立てて社会的懸念を抱くべき内容ではないでしょう。
加えて言えば、仮に助けに行った時間の遅さが他のケースよりも突出していたとして、その違いが実際の社会行動において決定的な差を生むでしょうか。暴力ゲーム群は怪我人に対する加虐行為に及んだ!とかだったら問題は大きいかもしれませんが、実際には救助行為がなされていて、その行動が起こされるのに時間がかかった、ということですから、むしろ暴力ゲームをプレイした後でも現実の倫理観を失うことはないことが確認された、という見方もできるのではないでしょうか。
結局、この実験結果だけでは、暴力ゲームが一時的であれ(社会問題たりうるほどに)悪影響を及ぼすかどうかということは判断できません。にも関わらず、あえて負の側面であるかのように吹聴することで、聞いた人が勝手に社会問題としてのイメージを持つことを期待しているわけです。この実験結果をもって「暴力ゲームは有害だ」と結論付けるのは、「レントゲンは放射線を利用するのでそれ自身が染色体異常を引き起こしうる」事実をもって「レントゲンをガン予防に用いるのは逆効果だ」と言ってしまうほどの飛躍です。


さらに付け加えるならば、このような効果が果たしてどの程度の強度で持続しうるのかということも考慮しなければなりません。一度でも暴力ゲームをプレイしていれば永遠にその効果が残留する?そんなことはないですよね。もしそうだったら、この実験を始める前から母集団の中には(320人も居れば暴力ゲーム経験者が含まれててもおかしくないですから)有意な差が存在してしまっている可能性が生じます。つまりこのような効果はもっと短期的に消滅していると考えるほうが辻褄が合います。それこそ冒頭で述べたバイオハザードの後の夜トイレの件とか、仮にそういう精神状態になったとしても、翌日にまで引きずったりはしないのが普通です。
で、実際にもっと大規模かつ長期の調査の結果としてそのような悪影響は否定されてたりするわけです。いやまあごくごく当たり前の話なんですけどね。したがって、これらの研究を矛盾無くまとめるなら、短期的に影響はされても長期にわたって悪影響を及ぼすことはない、ということになり、これは暴力ゲーム全体の規制云々といった社会問題的な話ではなく、子供にどのようにゲームと付き合わせるかという各家庭や教育機関の取組み(ペアレンタルコントロールとか)の話になっていくのではないかと思います*2


そういうわけなので、この実験結果がゲーム規制の根拠なんかにはなりえません。根拠にしようという人がいたら、わかってて手段を選ばずに規制推進しようとしているか、頭が弱いかのどちらかでしょう。

*1:タグ迷いました。まあ規制関連ってことで。

*2:ゲームを一方的に悪者扱いしたい親御さんたちには残念なお知らせかもしれませんが。