政治利用ダメ、ゼッタイ

天皇の政治利用を指摘されて小沢幹事長が逆ギレした件。
テレビのニュースで会見の様子を見たけど、文字起こししたもの読む以上に酷い印象を受けた。

もしどうしても反対なら、辞表を提出した後に言うべきだ。

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まあまずはお前が入閣してから言えと。まあ閣僚の立場で言ったとしても、あからさまに言論封殺だけどね。
天皇制のあり方という重要事案についてオープンな問題提起をしたという点では、(その主張の賛否は別としても)宮内庁長官の会見は有意義だったのは間違いなく、その実務家からの貴重な意見具申に対して(閣外から)「黙れ」って恫喝してるわけだからねぇ。みんな傀儡政治だとはうすうす気付いてただろうけど、ここまで独裁者ぶりをあらわにするのもすげえよ。


天皇と外国要人との面会について、相手国の大小や友好関係の軽重によって、会う会わないを決めてしまうと、それ自体が政治になってしまう。「天皇が会ってくれたことによって、日本が相手国を重要視しているとの意志を示した」みたいなね。だから、そういった政治性を帯びないよう中立性を保ちたい場合、「いっさい会わない」か「できるかぎり全ての相手と会う」かのどちらかしかない。で、今の皇室は親善を目的とし後者を選択しているわけだけど、今上陛下の健康がおもわしくないことを鑑み、相手国には30日以上前に申し入れてもらって、その中でできるかぎり多くの申し入れに対応できるように予定を立てている。
そういう状況にあって、ある特定の一国に対してだけ、30日を割ってても予定を都合してあげちゃうってのは、その相手国に便宜を図っていることに他ならず、政治的中立性を脅かしているとみなされてもおかしくない。


確かにルールの杓子定規的な運用はよろしくない、という点については一理あるけど、それならば、中立性を保つためにこのルールが生まれた深謀遠慮を覆すだけの理屈を提示して「特例だけど中立性は保たれるよ」ということを説明しない限り、ただのルール違反にしかならず、中立性を損なっているとの批判は免れないでしょう。

首相は「本当に大事な方であれば、天皇陛下のお体が一番だが、その中で許す限りお会いになっていただく」と述べた。

http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/091214/plc0912141010002-n1.htm


首相はこう言ってるけど、「政治的に大切にしたい相手だから優先的に会わせたい」という考え方それ自体が、もうすでに天皇の政治利用の意志に当たっちゃうんだってば。大事な相手だからとか何とか、この面会をセッティングしたことの重要性を説けば説くほど、これが政治的意味合いの強い案件であることが浮き彫りとなり、かえって天皇の政治利用という色合いが強まっていくことが理解できていない。
どう見ても天皇の政治利用です、本当に(ry


ま、ゲル長官の指摘どおりですな。

天皇陛下の行為は、国民が選んだ内閣の助言と承認で行われるんだよ、すべて。それが日本国憲法の理念であり、本旨なんだ。

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そして、この発言が、「天皇の政治利用ではないか」という指摘に対する反論になってると思ってるんなら、小沢幹事長憲法を字面だけでしか理解していないと言わざるをえない。
そもそも現憲法において天皇が象徴として位置づけられている理由は、戦前戦中において天皇の権威を利用して政治を進めたことが結果的に過ちに繋がったのだと反省したからでしょ。だから、戦後、天皇は政治には関わってはいけないということにした。天皇自身が政治的意図を伴う言動をしてはならないし、政府もまた天皇が政治性を帯びてしまうような扱いをしてはならない、と。
小沢幹事長が会見で取り上げた条文が本来意味するところは、天皇の政治的中立性が損なわれるようなことを内閣が企図しないということを大前提に、もし天皇の行為が(意図的にか結果的にか)政治性を帯びてしまうような懸念がある際に、「その行為は政治性を帯びてしまいますよ」と、政治について把握している内閣が天皇の中立性を保つために助言する、という意味でしょJK。
それをあたかも「内閣が好きなように天皇アゴで使っていい」なんて意味として理解しているのなら、それは現憲法制定時に懸念された天皇の政治利用そのものだってことになる。理念であり本旨だ?自分が戦前戦中と同じ思考に陥ってる自覚が無いのかね。憲法学を学んで無くったって、このくらいの憲法理解は中学校の公民で習うレベルだろうに、与党第一党の幹事長として恥ずかしくないのかしら。


だから、本件に対する批判の主旨ってのは「本来なら天皇の政治的中立性を保つために行なわれるべき内閣からの助言が、本件においては逆に政治性を帯びさせる作用として働いているのではないか?」ということであり、つまり「内閣からの助言が中立性を損なってるんじゃないの?」という指摘であって、これに対し小沢幹事長は「好きなように助言していいんだよ」と応じているわけで、中立性を保つための助言で無ければならないという大前提を完全に無視している。全くもって反論になってないし、そもそも天皇制への理解が浅薄すぎる。


一部には「本件を批判してる奴は天皇崇拝のネトウヨ」みたいに揶揄する人もいるようですが、本件に関しては天皇制存置派も天皇制廃止派も関係ないです。
天皇制存置派は「戦前戦中に天皇を政治利用した過ちを繰り返さないよう天皇制を存続していくには、天皇に政治性を帯びさせないようにすることが肝要だ」と考えるでしょうし、他方で天皇制廃止派は「政治利用の懸念が常にあるから天皇制は廃止すべきだが、今すぐに廃止できないのなら政治利用されないよう現行制度の運用をきちんと監視しなければならない」と考えるでしょうから、両者とも「天皇の政治利用は言語道断」という点では一致します。実際、本件に関しては社民党や共産党からも批判があるようですしね。
逆に本件を問題視しない人というのは、「別に政治利用してもいいんじゃないの〜」と前世紀の教訓を全く活かそうとしない人か、あるいは「これで政治利用のハードルが下がったぜ〜しめしめ」という不逞の輩くらいではないでしょうか。


「そもそも天皇の行為が政治性を帯びなかったことなんてない」「今までの“親善”も政治的に利用されてきたではないか」という指摘もあります。しかし、天皇の行為が常に政治性を帯びてしまうと考えるのであれば、なおのことその政治性が公平で中立になるよう気をつけなければなりませんし、過去において政治利用が疑われる事例があるのなら本件とあわせて批判の俎上に載せるべきでしょう。いずれにせよ、本件を正当化する理由にはならないのです。


鳩山首相は宮内庁長官の処遇について保留していますが、宮内庁には長官の主張を支持する声が寄せられ、また民主党には苦情の電話が殺到しており、もし処分したりしたら内閣支持率がガクッと下がることは容易に想像できるので、そこは何事も無く済むだろうとは思います。
ただ、今回の件で、小沢幹事長の強権的な側面が世間に露呈し、また政治家としてのインテリジェンスの低さが晒されてしまったので、今後ボディーブローのようにジワリジワリと政権を蝕んでいくことになるのではないかと思います。