むしろ議論させろよ


条例案の件で、都の元職員とかいう人が何か言っているようですが、これ完全に体制に染まった人の意見だよね。この人に限らず、この手の「オタク側が努力してないから規制されても仕方ない」論をぶつ人って、


こういう主張をすることが多いけど、商業誌には出版社の窓口があるし、同人誌には奥付とかに発行元の連絡先や印刷所の名前が書いてあるじゃん。なので、こういう主張をする人が「自分で制作者サイドに意見を言う」ことをした経験が無いって丸わかりなんだよね。


以前にも書いたとおり、表現の善し悪しは市民が自らの手で決めることであって、公権力に頼るべきではない。その「自らの手で決める」ということは、もっと具体的に言えば「表現内容に問題があると感じた個人がその意見を制作者に伝える(場合によっては不買運動を呼びかけるなどする)」そして「制作者はその意見を参考に変更したり反論したりしながら表現活動を進めていく」という有機的なプロセスであり、問題を感じる人が自らの意見を(公権力に対してではなく制作者に対して)伝えるところからしか始まらない。だって問題を感じる人が誰も声を挙げないなら、残るは問題を感じない人しかいないんだもの、そのように問題にされうること自体が可視化されないから制作者はそんなの一顧だにしなくて当たり前。そうやって誰にも文句を言われてこなかったからこそこれまでどおりの表現活動を続けてきてるのに、何の前触れも無くいきなり「気に入らないから規制強化します」だなんて、制作者からすれば青天の霹靂だし、そういう事態になってから後出しで「そもそも配慮が足りてなかった」だの何だの言って規制強化を正当化する人は、じゃあ規制強化を担ぎ出す前にその文句を制作者に言えよって話でしょ。


今の規制推進の動きって、そういう市民レベルの活動をすっとばして行われてるのがそもそも変なんだよ。ぶっちゃけ、漫画やアニメやゲームの表現内容を気に入らない市民が制作者サイドに直接モノ申すという市民レベルの活動の一切を(面倒くさいんだか勇気がないんだか)放棄していきなり役所に駆け込み、役所はこれ幸いと自分らにとって都合のいい(新たな天下り先を確保できるand/or行政を権威付けることができる)条例や法を通そうと画策してる、って構図でしょ。そんでもって規制を目論む団体なんかはその役所の思惑を察して結託してるという。
この場合、その表現を非とする市民とは別に、(その表現が流通しているのだから)その表現を是とする市民もいるわけで、本来なら役所は市民のどちらにも肩入れすべきではないんだよ。まずは市民同士、特にその表現を世に送り出した者と、それを問題視する者との間で議論すべきであって、役所はせいぜいその議論のお膳立てをしたり調停したりする立場をとる以外はありえない。最終的に何らかの法律なり条例なりの形に落とし込むにしても、当事者間の長い議論を経た結果の落としどころとして(やむをえずに)そういう話が出てくるべきでしょうに。
もしも都が「当事者同士の話し合いのテーブルを用意する」という施策で事に当たっていれば、例えば、販売規制を伴わない形での推奨年齢表示というような自主的な取り組みが、消費者も出版社も納得する形で実施できていたかもしれない。それこそが市民自らの手で決めるということであり、そのような市民の自主性・自律性を促すことこそが自由主義社会における行政のあるべき姿だと思いますが、実際にやったことと言えば規制反対派のことを精神障害呼ばわりするほど規制強化したくてたまらない面子だけを集めて協議会を開き規制強化ありきの答申を出させたという有様。
だからこの文脈で行くと「多様な表現のあり方をどう受容すべきか市民間の自由闊達な議論を深め社会の成熟を促すべき場面において、己の権威や権益や対面や保身のために一方的な条例化による決着を急ごうとする都の担当者は害悪」以外の結論はありえないはずなんだけど、古巣への愛着なのか何なのか、件の元職員さんは「反対派の歩み寄りが足りない」という結論に無理やりにでも誘導したいようで。歩み寄りの機会を潰してるのが他ならぬ都の本件担当者だっていうのに。


今回の件では日本ペンクラブ東京弁護士会が反対表明をしてくださっていますが、その中で「あいかわらず根本において、公権力が人間の内面や言論・表現の自由の領域に関与・介入することに対する謙抑的な配慮が感じられない」「公権力がある表現を『有害』かどうかを判断することについて、何の疑念も抱いていない」と批難されているのは、まさにこういう点についてでしょう。


だからね、2ちゃんねるあたりで「チャンピオンREDいちごはやりすぎ、規制やむなし」みたいなことを書き込んでる連中は、まず秋田書店に電話してオマエ自身の声でその意見を伝えろよ。そうやって議論を起こすことすらせずに一足飛びに規制まで繋げちゃうことが問題の本質なんだからさ。「表現内容についての文句は制作者に直接言え、その労力を公権力にアウトソーシングしようとするな」ってことを、皆もっと意識すべき。