劇場版マクロスF感想


今日は劇場版マクロスF 恋離飛翼〜サヨナラノツバサ〜を見てきました。公開初日だからなのか、劇場の受付のお姉さん2人がコスプレ(アルト&白うさぎ)しててビックリしました。
劇場版前編の感想と同様にステージ演出や高速戦闘の描写の素晴らしさはそのままに、マイナスポイントだったアルトの煮え切らなさなども今回の映画ではだいぶ改善し、歌舞伎という要素もきちんと絡めていて、全体としての面白さはかなり高くなっているように感じました。ただ、結末については賛否両論ありそうな。


以下ネタバレあり。




河森監督はインタビューに答えて「自分は原作改変の激しい監督である」という自己認識を語ってたりするけど、自身が作ったTVシリーズマクロスFという原作をここまで大胆に改変するものかと驚きます。そのくらい個々の出来事なんかは大幅に書き換わってるはずなのに、でも物語の持つ大きな流れや作品としての雰囲気は確かにマクロスFであると感じさせる。とても不思議な感覚です。


2ちゃんねるあたりではランカを重点的にフィーチャーするも最後は振られ、相思相愛のアルト&シェリルも行方不明&植物状態になるという誰得映画みたいに評価されてるようですけど、エンディングテーマはアルトの帰還とシェリルの復活を示唆してるし、内容的にもランカだけでなくシェリルについても掘り下げられてるから、やっぱちょっと偏った評価なのではないかと。
ただまあそれでもどうしてああいう終わらせ方にしたのか腑に落ちないのも確かで、おそらく意図的にマクロスゼロの結末になぞらえて作ったんだろうとは思うけど、そもそもマクロスゼロの結末自体そこまで高評価されてるとは思えないんだよね。あれはあれで神話的な語り口ないし悲恋の運命として理解されてるからこそ美しい終わり方として受け入れられてるのであって、ラブラブ結末を望むようなカプ厨の見方からすればハッピーエンドとは言い難い。で、マクロスFのファン層ってやっぱりラブラブ結末を望む傾向のほうが強いんじゃないかな〜と。そういう意味じゃ、結末に関してだけは望まれてたモノから外してしまった感はあります。
まあTVシリーズでの「ランカかシェリルかどっちか選べよヘタレ野郎」という批判に応えるべくいずれかを選ばせても、選ばれなかったほうのファンが不満を持つであろうことを考えれば、短い尺で強行着陸するためやむをえずそういう展開にしたってこともあるかもしれませんけどね。ただそれはやっぱ逃げでしかなくて、そこはもっとちゃんと、選ばれなかったほうが選ばれなかったことを受け入れるところまでしっかり描写する形で、きちんと恋愛物語としてオチをつけてもらいたかったって感じですね。そこのところは、この映画の評判次第で、BD/DVD完全版みたいな形で何かしらフォローがあることを期待したくもありますが。


結末以外に関しては、野望阻止のためにSMS組が独自に動くという骨子はTVシリーズのまま残しつつ、TVシリーズでは一時的にでも蚊帳の外になったアルトとルカもすんなりとそこに参加させたこと、また野望を進める側もギャラクシー組→ミシマ→ギャラクシー組と二転三転させ謀略を磐石なものとは描かなかったこと、ブレラやグレースを改心させて終わらせたこと、等々の変更によって、TVシリーズで感じた悪い意味で運命に翻弄されてる感じはだいぶ軽減されて、王道的な展開をストレスフリーに素直に楽しめる構成になっていたと思います。
翻弄されることが無くなったぶん、結果的にだけどアルトの優柔不断さもだいぶ減ってます。病院の屋上でシェリルに泣きつかれるもコケたランカに走り寄るところとか、逮捕されたシェリルに対して自分の気持ちをどうしようもできないところとか、確かに優柔不断さの片鱗は見せるんですが、オズマや艦長が率先して独自行動を打ち立ててアルトをそこに取り込んでいくことで、悩める青年とそれを導く大人というような構図に落とし込まれ、アルトの優柔不断さも年齢相応の葛藤として理解できるくらいにはなっている。TVシリーズで「自分で考えろ」的に突き放され右往左往した展開よりはこっちのほうが断然いいですね。そして最終的には、ミシェルにも見直されるほど覚悟を決める、青年の成長劇としてきちんと成立してます。


あとは、バジュラと意思疎通を試みれるのではないか、試みてみよう、という話がかなり早い段階で出てきていて、最終決戦はほとんどバジュラと和解するためという位置付けになっていたのも大きな違いかな。TVシリーズでは土壇場でバジュラ=いい奴な唐突な展開だったので、そこらへんはうまく再構成されてると思いました。ぶっちゃけ劇場版ガンダム00に近い筋立てになってはいたんだけれども、あっちが「よくわからんけどGN粒子と脳量子波でなんとかなるんじゃね?」的バクチが成功するご都合主義展開だったのに対し、こちらはきちんとバジュラとのコミュニケーションを試みようとする研究が続けられてきたって裏打ちされてて説得力があるかと。ただ、生き物の心について話すランカや、バジュラ理解の過程においてジェームズ・ランゲ説みたいなところにまで話が及んだときには、「また監督のアルジュナ面が疼き出したか・・・」と少し不安になりましたけどw


カニックに関して言えば、YF-29のカラーリングってなんだかニルヴァーシュ type ZEROに似てるな〜と漠然と思ってたら、まさかマクロスクォーターがサーフィン始めるとかwこういうシリアスなはずのシーンでバカバカしいアクションを組み込むあたりはアクエリオンを髣髴とさせるものがありますね。そういや赤と白のカラーリングはソーラーアクエリオンにも似てるかも。
しかしながら当のYF-29そのものは目立った活躍は無かったかな。いや、確かにバジュラとの交感に果たした役割は大きいけど、それってダブルオークアンタ的な活躍だからなあ。ブレラとのガチタイマンでは結局一方的にロック取られちゃってたしね。それならそれで「YF-29に搭載された大量のフォールドクォーツが2人の歌を大幅に増幅してクイーンに届けてるんだ」的なことをルカあたりに喋らせて、その歌によりクイーンが洗脳に抗って動きを止めてる間にブレラが黒幕の中枢部を落とすみたいな形で見せたほうが、果たした役割をもっと強調できたんじゃないかな?と思ったり。


本筋以外では、サービス精神が旺盛な内容だったと思います。TVシリーズから物語が改変されてるから出ないだろうなと思ってた星間飛行がああいう形で出てくるとは思わなかったし、ダイヤモンドクレバスやノーザンクロスやライオンのかかり方とか、TVシリーズからのファンのツボを押さえまくってて鳥肌が立つレベル。また前作では完全ハブだったナナセも意外な形で登場(ただしルカ×ナナセを期待した人には物足りなかったかもだけど)したし、アルトは女装してくれたうえにノリノリなアクションを見せてくれたし、シェリルがハッキリとマオ・ノームに言及しマクロスゼロとの繋がりをかなり強調してたり、クランやミシェルたちによるファイアーボンバーコスのバンドとか、挙句にイサム・ダイソンまで登場したりと、嬉しくなっちゃう仕掛けが随所にありました。


総評としては、結末についてだけは賛否が分かれるところかもしれないけど、そこを抜きにすれば、シナリオ・演出ともにTVシリーズよりも格段に完成度が上がった、とてもエンターテインメント性に溢れる楽しい映画だったと思います。