おおかみこども感想


今日はおおかみこどもの雨と雪を見てきましたよ。公開からだいぶ時間が経って今更感がありますけど、この夏は本当にいろいろ忙しくって、やっとこさ時間を作って見に行けた感じ。ああ次はなのは2ndを見に行かないと・・・。


劇場は、それでも見に来てる人が結構いて、客層も子供連れや年配グループなどなど幅広くって、「ああこういう感じの映画を見るのも久々だな」と思ったり。当然のごとくカップルも多くて内心「爆発しろ」とか思ったけど、上映が終わって外に出るとき、「やっぱ雨ちゃんだよねー」「かわいいよねショタ好きにはたまんないよねー」みたいな会話をしてたので許した(何


細田監督作品というと、自分は時かけサマーウォーズも劇場で見たけど、今回の映画はそのどちらとも違う感じ。その理由としては(1)物語を追いかける主な視点・目線が母親という、前2作よりもより大人のポジションになっていること、(2)前2作が目の前に転がり込んできた問題をどう解決するかという非日常の物語だったのに対し、本作は辛いことも楽しいことも多い日常をどう積み重ねていくかという物語であること、などがありますね。
フックとして狼男というファンタジー要素を前提としてはいるものの、そこから展開される悲喜こもごもや人間模様は、割とありふれた光景というか、よくある人生の場面場面を狼男由来の流れとして描いているだけで、そういう、どこかにありそうな・どこにでもありそうな人生を、物語として共感し楽しめるような感性がないと、つまらないと感じてしまうのではないかと思います。わかりやすい派手さや血沸き肉踊る展開とは無縁な内容ですし。
そういう意味では、大人向けの映画という印象が強いです。宣伝のされ方としては割とファミリー向け映画として売り込まれてるような感じですが、若い層、特に子供たちにはあまりウケにくい映画なんじゃないでしょうか。


まあぶっちゃけて言ってしまえば、家族史ですよねこれ。ただ、最近のアニメ作品ではこういう題材は非常に珍しく(うさぎドロップが近いか?)、それゆえにとても新鮮に感じました。もっとこういう作品は増えてほしいなあ。


以下ネタバレあり。






1つの家族にフォーカスしていながら、13年という月日を描いているために、不思議と時間的・空間的な広さを感じさせて、そこが何よりも驚きで面白かったですね。たった2時間の映画なのに、振り返るとあんなこともあった、こんなこともあったと感慨深くさせられるのが凄い。多分これもう一度見たら、家族の思い出ビデオを見るような、そんな感覚が味わえるんじゃないでしょうか。


それだけ長い期間の出来事を一本の映画の尺にまとめた、その力量が素晴らしいということになるのでしょう。本当にいろんなエピソードが詰め込まれていて、2人の質素なアパート暮らしとか、獣姦とか、誰にも頼れない母子家庭の子育てとか、田舎の景色の美しさとか、廃屋萌えとか、菅原文太ツンデレとか、幼女のダダこねとか、お転婆幼女が美少女にクラスチェンジしていく課程とか、病弱ショタが寡黙少年にクラスチェンジしていく過程とか、小学校での揉め事とか、野生動物との交流とか、嵐の夜を学校で過ごすとか、本当に見所が多い。これだけ多いと、誰でも何か1個くらい琴線に触れるものがあるだろうという豊富さ。
んでもって、この豊富さというのは、狼男設定に下支えされてはいるもののそこが本質ではなくて、人の人生にはそれだけいろんなことが起こるよ、ということなんだと思う。自分の大したことない人生を振り返ってみても、確かにいろいろなことを経験してるし、節目節目で大きな転換があったりしたしね。そんなん当たり前だろうと言われりゃそうなんだけど、多くのアニメ作品において非常に短期的な劇中時間でもって物語を描く必要があるために固定的・静的なキャラ付けで差異を出すのが当たり前になっているだけに、派手に突出した個性を設定されていないキャラを長期間にわたって動的に描くことでそのキャラの唯一性の浮かび上がらせる本作のあり方は、人生を描く面白さ、ひいては人間を描く面白さを、改めて気付かせてくれた、そんな感じ。


技術的な点についても言及しておくと、作画の良さはもちろんのこと、CGをふんだんに使いつつも、手書きとCGを違和感なく融和させているところに感心しました。自動車をCGで描くのは最近じゃあTVアニメなんかでも普通になってきてますけど、それでも違和感が残ったりするもの。人工物以外にも、本作ではいろいろなところにCGが使われているそうだけど、そういった違和感を感じるところがほとんどありませんでしたからね。全編にわたり説得力ある映像を作り上げているからこそ物語にもリアリティ・納得感が生まれるわけで、技術力が正しく表現力に寄与しているように感じました。


不満点があるとすれば、クライマックスの、花が雨を探して山を彷徨うシーンですかね。ネガティブな状況を引っ張り過ぎといいますか。それまでの展開において、人としての生き方を選んだ雪と、狼としての生き方を選んだ雨、という対比は視聴者にも了解されているはずで、あの流れだともう雨は戻ってこないのだろうということも読まれているはず。過酷な状況の中で無謀とも言える捜索をした、ということさえ描ければいいのだから、そこに尺を使う必要は無かったように思います。
そのかわりに、雨はもう立派な狼なのだということを、もうちょっとうまく見せられなかったのかなあと。あれだけ捜索で引っ張った割に、夢の中での会話と、最後の後姿&遠吠えだけでは、独り立ちを認めちゃう花の心理にちょっと納得しづらいところが。


とは言え、全体としてはとても完成度が高い作品で、個人的には前2作よりも好きな作品です。同じスタッフで次があるなら、派手なアクションやファンタジーより、こういうじっくりした味わいの路線でいくほうが、良作になりやすそうな気がします。