メディアの違いを理解せよ


原作に描かれている事象を寸分違わず映像にしようとするアニメ化はよろしくないという意見。具体的な作品名を挙げてどうこう言うつもりは無いけど、大筋でものすごく同意できる。


そもそもその原作が生まれてきた過程を考えてみるに、まず描きたい物語の構想が原作者の頭の中にあって、それを特定のメディア(小説なり漫画なり)にアウトプットするにあたり、そのメディアの特性にあわせた最適化を経た上で、最終的な作品として形を成しているはず。ここでいう最適化ってのは、そのメディアが得意とする表現を活かし、苦手とする表現を避けるよう、描写する内容・描写しない内容を調整することですが、それは単に各場面の描き方というレベルに留まらず、プロットのレベルでの調整もままあるでしょう。例えばミステリなんかだと、そのメディアの特性ありきのトリックが使われたりね。だから、作品内容はメディアの特性とかなり深い部分で結びついている場合が多く、往々にしてメディアの都合にあわせた物語られ方をされている、と言えます。
したがって、ある作品に描かれている内容を徹頭徹尾そのまま別のメディアに描き移そうとすると、どこかしら無理が出てくる。なぜなら、その作品に描かれている内容は、その作品の元のメディアの特性に最適化されており、移行先のメディアの特性には必ずしも最適化されていないから。元メディアが得意とした表現を移行先メディアが苦手とした場合でも、元作品でそのような表現が採られているなら、苦手であってもそれを移行先メディア上でやらなければならない。逆に移行先メディアで得意なはずの表現を元メディアが苦手とするのであれば、元作品はそもそもその表現を選択しないので、その点で移行先メディアの強みが発揮されることがない。
この傾向は、それらメディア間の特性の差が大きければ大きいほど強くなるし、元の作品が元のメディアの特性を活かしていれば活かしているほど強くなる。そういう事情があるので、元の作品の内容をそのまま別のメディア上に描き移そうとする方法は、結果的に、移行先メディアの特性を活かしきれない見せ方になってしまう可能性が高い。アニメ化で言うなら、アニメというメディアの特性を活かしきれない見せ方になってしまう危険がある、ということ。*1


では、移行先メディアの特性を活かすにはどうすればいいか、と言うと、元の作品が元のメディアと強く結びついている部分について解きほぐし、移行先メディアの特性にあった内容へと置き換えていくこと。もっと踏み込むなら、原作者が作品執筆時に行なった最適化作業の逆変換を行なって、物語の構想に立ち返ってから、改めて移行先メディアへの最適化を施すこと、でしょうね。
これは一般的には翻案と呼ばれる作業ですが、特性の大きく異なるメディア間を越境し、それぞれの特性を活かしつつ同一の物語を展開するのは、このような翻案によってしか実現しないのではないかと。なので、個人的には、他メディアの作品をアニメ化するのも、望むらくはこのような翻案であってほしいと思いますです。

*1:まあアニメ作品としての面白さよりも、寸分の違いなく原作と全く同じ事象だけが起きることを期待する向きにとってはそれでもいいのかもしれませんがねw