叩きは非生産的よ


乙武さんが、入店の介助を店員に依頼して断られたことを、店名を挙げて批難したお話が盛り上がっているようで。
これ店側を責めるのは無理筋でしょう。店員2人がいたにしても、介助のための専門的訓練を受けていなければ、狭い階段を1人ないし2人で搬送するのはかなり危険が伴うはず。もし事故にでもなれば、乙武さんは大怪我を負っていたかもしれないし、そうなれば店員さん達も(法的・社会的に)タダでは済まないことになります。その場で断った店主の方(とされる人)は、いくら反感が集まろうとも、その状況で全員にとっての最善の判断を下したのだと思います。
それに、店側の言う「事前予約の際に伝えられていれば車椅子の方でも利用できる」との主張が本当であれば、別に障害者を排除しようとしているわけでもなく、小さい店なりに障害者のための便宜を図る努力は十分にされてると思うのですけれども。
そのうえで、乙武さんサイドが気分を害したというのは、これはもうコミュニケーションの問題でしかないですよね。当事者達がその状況に至るまでの、それぞれの心情の文脈があり、それによって各々の言葉の解釈やニュアンスの伝わり方に何かしら齟齬があって、最終的な決裂を生んでいる。ドライブレコーダー的な記録があるわけじゃないのだから、そこを細かく検証することはできないし、であればそこを議論しても水掛け論にしかならんわけで、儀礼的にでも互いに謝罪を交わして水に流す以外の解決法は無いんじゃないかと。


もちろん本件について、より一般的に、バリアフリー化の遅れの問題といった観点から論じることもできますけど、それこそこの店一軒の問題に収まらん話で、この店だけを殊更に責めるのはむしろ論点の矮小化にしかならない。仮にこの店一軒を改築させたり廃業させたりしたとしても、似たような業態の店はゴマンとあるんだから。
つか、この店を責めてる人達のうち何人が、日頃から「『障害者が事前連絡無しでも不便なく利用できる』ほどバリアフリーに配慮している施設や店舗だけを優遇し、そうでない施設や店舗を避ける」ような消費者行動を心がけてるんですか?ってことよ。今回のような店の対応が“常識”扱いされているのは、それでよしとする消費者が大多数だからこそでしょ。みな日頃はバリアフリーなんか全く気にせずに自分にとって利用しやすい店をただ利用しているからこそ、こういった業態の店舗が存続可能になっているという因果関係に目をつぶって、店の側だけを一方的に叩くのは、ちょっと近視眼的過ぎじゃあないですかね。


まあ、そういった事情があることを踏まえて、市場原理にまかせていてはバリアフリー化が進まないから法規制を強めろ、という議論もありえますけど、事前連絡無しであっても介助対応することを全ての店舗に義務付けた場合、じゃあ今度はどんだけの店が生き残れるの、って話でもあってね。バリアフリーに万全な店舗面積・設備や店員教育・人員数をまかなえるだけの資本を背景にしないかぎり出店できないような社会というのも、ちょっと極端すぎるでしょう。
より緩やかに変えていく方策として、バリアフリー化のための商業施設改築費用に国が多額の助成金を出す、とかのほうがマシでしょうね。それにしたって、国民がそのための予算を許せば、って話ですが。


あるいは自主的な取り組みとして、地元の商工会などで見回り隊を結成し、繁忙時間帯に街頭に常駐させて防犯に貢献するとともに、障害を持つお客さんが商工会員の店舗に入店・退店する際の介助等も担うようにすれば、店舗あたりの負担を少なくしてバリアフリー化を進めることにも繋がるでしょう。まあこれも負担が少ないとは言えコストゼロではないので、やはりこのような取り組みを選好する消費者であったり助成金であったりがないと難しいでしょうけど。


何にせよ、社会における障害者の扱いにまで主語を大きくするなら、我々1人1人が当事者であり、そういった自覚を持って議論をすべきなのであって、安全圏から特定の一店舗を叩くようなやり方は何ら生産性が無いよなー、という雑感。