規制推進報道あれこれ

ここらで規制関連の報道が続いてるようです。


まず1つ目。フィリピンで児童ポルノを取り締まる法が成立間近という報道。その事実だけ伝えればよいものを、余計なミスリードがいっぱい付いた記事になっていますね。
フィリピンが国内において何を禁止し何を許可するかはフィリピン自身の選択の問題なので、そのこと自体はいいのですが、わざわざ「児童ポルノ規制強化の動きは、単純所持を禁止しない日本などにも影響を与えよう」などという文言を入れるのは、これが外圧となって日本の施策に影響するのをよしとする意図が見え見えです。
特に2ページ目。まず「児童ポルノ漫画」というミスリードそのものな言い回し*1をいきなり使ってるあたりからして酷い。そして、紹介されている現地の翻訳アルバイトについては、今まで合法だった業務について違法化されるのであればそれこそフィリピンの問題ですが、紹介されている業態を見る限り、これは海賊版を作って売りさばいている業者なのではないか?という疑いがあります。
成人向けメディアに限らず、日本で製作されたコンテンツについて海賊版が作られ海外で流通するのが常態化しているというのは以前より問題視されています。これは単に著作権侵害の問題には留まりません。というのも、通常、日本国内で製作された作品を海外で販売する場合、単純にセリフ等の翻訳をするだけではなく、販売先の国の法令やモラルコードに照らして問題が無いかどうか検討され、問題のある箇所については表現内容を変更するなどの措置がとられる*2のですが、海賊版はそのような配慮をしないまま単純な翻訳をしただけで流通してしまうため、(作品の原著作者にはぜんぜんその気は無いのに)その作品が現地の当局や社会との軋轢を生んでしまうことがあるのです。具体的な事例として中国では正規品が流通していないはずなのに「デスノートごっこ」が子供たちの間で流行って現地当局が問題視したなどという事件も起きています。
元記事は日本の漫画がフィリピンに迷惑をかけているかのような論調ですが、もしこれが海賊版の業者だったとすると、自国内で問題視されるような外国作品の海賊版を作っているこのような業者の存在こそがフィリピン社会を脅かしているのであって、日本でどのような原著作物が作成されるかは全く関係の無い話になるわけです。そしてこういった業者を駆逐すべくフィリピン政府が今回のような規制を設けた結果としてこの人が職を失ったとしても、それはフィリピン政府の意図通りであり、またそれによってこの人が困窮するのもフィリピン国内の雇用問題に過ぎない、ということになります。こういった状況をお涙頂戴話のように紹介して日本の漫画を問題視する印象操作をしているのだとしたら、記者の見識が疑われます。


2つ目。先週の件続報について。批難を受けて販売をやめてしまうゲームメーカーについては、ヘタリアのときと同じでメーカー自身の選択なので何とも言いようがないですが、これが当該人権団体の功績として後々まで利用されそうなのが気持ち悪いところ。
第一報の時点でこの団体とAPP研との繋がりを指摘する人もいましたが、この記事で実際にコメントしているのがモロにAPP研の関係者であるところの角田由紀子弁護士だったのには噴きました。これはもう規制強化を望む日本国内の勢力が国外団体を利用して外圧を仕掛けたと見て間違いなさそうです。権威に弱い日本人をなびかせようとするのは日本ユニセフのときと似てますね。
団体の金策のために狙われただけという意見もありますが、急進的なフェミニストは当該団体の声明に見るような主張をガチでしたりします。性差に基づくステレオタイプを想起させるいかなる表現をも排除する、と言えば聞こえはいいですけど、そもそも性差を気にせずに男女とも同じ行為を同じようにできるようになったのは人類の歴史の中ではつい最近なので、伝統や文化は何かしら性差について織り込み済みで最適化され発展してきてる面を持っており、したがってその原理主義に従うなら既存のありとあらゆる伝統や文化を破壊する方向に向かいうるわけです。例えばファッションなんて今は男女別が当たり前で、売り場も男女別、情報誌も男女別、衣服そのものも男女別ですけど、原理に照らせば「性別によって美醜の基準が異なるのはおかしい」「全てのデザイナーは男女共用のデザインをするべき」みたいなね。極端なことを言えば「お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に」と子供に読み聞かせることすらステレオタイプの刷り込みだっつって糾弾されかねない勢い。そういった既存の価値観を全て破壊した上で、ユニセックス的な理想的な社会(原義のユートピア?)が作れるはずだし、作るべきだと信じているような*3。なので、向こうさんは割と本気であの声明どおりのことを考えてたりするんじゃないかと。
それを踏まえると、そういう立場の人たちとは決定的に断絶してるんですよね。向こうが妥協の余地なしで壊しに来てるので、もう徹底抗戦しかないっていう。相互理解も寛容も通じない。正直なところ相手したくないですけど、それで表現が規制されてしまうのをみすみす見過ごすこともできんし。キツいわー。

*1:日本の現行の児童ポルノ法で定義される「児童ポルノ」には漫画は含まれず、規制強化して漫画を含むかどうかについて賛否が分かれている状況において、わざわざこのような言い回しをするのは、何も知らない読者に誤解させる意図があるとしか思えません。

*2:例えば欧州に輸出する場合、ナチスドイツのシンボルであった鉤十字の意匠を作品中に登場させてはいけない、等の制限があります。

*3:なので伝統や文化を重んじる保守系の人たちはフェミニズムを(いろいろな見解・立場があっても全部ひっくるめて)ことごとく嫌ってたりするわけですよね。ジェンダーフリーそれ自体は積極的に啓発していくべきだと思いますが、何事もほどほどが大事だと思います。