財務省の言いなり

いろいろと反発の出てる事業仕分けの件。特にスパコン事業の研究費に関しての蓮舫参議院議員の発言に対して批判が集まっているようです。


国民への研究結果の還元という観点で見ると、産業化に直結するような応用研究に比べて、基礎研究は確かにそこのところが曖昧で素人には無駄に見える。でもその応用研究が生まれる素地には絶対に基礎研究の蓄積が必要なわけで、基礎研究無しには応用研究はありえない。仮に基礎研究への投資を削って応用研究だけ続けていくなら、他所の国の基礎研究をあてにしてそれに基づいた応用研究を展開する形になるけど、それは国際的に顰蹙を買う(というか、以前の日本はまさにそういう形で応用研究を進めていたんだけど、実際にアメリカから「お前ら自身では基礎研究やんねーくせに、俺らの基礎研究を下敷きにして実利の出る応用研究ばっかやってんじゃねーぞ、このタダ乗り野郎!」ってバッシングを受けて、大学院重点化などの基礎研究振興策を進めた経緯があるとか)でしょうし、基礎研究からのレベルのイノベーションはいっさい日本から生まれてこないことになります。資源の無い日本がそういう状態に陥って産業技術での後れを取るようになれば、外貨獲得は難しくなり食糧輸入などで苦しくなって、国民全体の生活水準も下がっていくことになるでしょう。
その意味ではまさしく

金の卵を産む鵞鳥を、お腹がすいたからと言って食べてしまえば、もう金の卵は手に入らないのです。

緊急メッセージ、未来の科学ために - 科学・政策と社会ニュースクリップ

との指摘のとおり。


ただ、個人的には、政府から基礎研究に対して投資される研究費に関しては現状でも問題があるとは思っていて、例えば「ここで100億かければ諸外国に1年だけ先んじることができます。でも2年後は抜かれてるかもしれません。抜かれないために継続的に巨費を投じ続けましょう。」というような、巨大実験装置の更新合戦のような分野に注力することが、国の科学戦略全体から見てどの程度意味があるのかきちんと検討されてるのかどうか。むしろ、全く未開拓の分野で何か始めようという研究者1万人にその100億を100万ずつ分け与えたほうが、全体で見たときにより大きな成果が得やすいのではないかと思う。
前者のような巨大プロジェクトは、今までの実績があるし、その流れから今後の展開がおおむね予測どおりになるし、その分野の権威ある研究者が数多く関わっているし、等々、役人にとっては説得的な材料が揃っていて、大きな失敗はしないし、細かな失敗のエクスキューズが効きやすい。他方で後者のような新規プロジェクト乱立は、未開拓分野ゆえ今までの実績が無く、ゆえに見通しは立ちにくく、無名な研究者も関わってきやすく、当然かなりの数の期待ハズレが起こり得て、ことによっちゃ選定の責任なんかについて追求されかねない、役人が最も嫌いそうな感じ。
でもさ、革新的な成果を出す可能性で見たら後者のほうが大きいのではないかと。仮に1万人のうち9990人が大ハズレだったとしても、残りの10人それぞれが将来の10億円産業を生み出す応用研究に繋がるような成果を出せば十分に元は取れる。かなりバクチ的な話に聞こえるだろうけど、ブレイクスルーというのは基本的にどこで起きるかわからないもので、革新的な成果を狙って出すべく投資先を絞るなんてそもそもできない。でも、逆に言えば、そのバクチを広く張っておけば一定数の当たりを引くことはできるわけで。そういう意味じゃ、1つのプロジェクトに巨費をまるまる投じるってのは「安定した成果は出るだろうけどその安定性ゆえに革新性には望み薄な」1点買いになってしまっていて、役人の保身にはなるだろうけど科学振興としては非常に非効率なことをやってる可能性がある。


本当はそういうところをこそ検討してほしいんだけど、実際の事業仕分けで議論されてることはものすごく稚拙に感じるんだよね。そもそも切りやすいところ≒基礎研究だけを事業仕分けの対象として主計局がリストアップしてるって話もあるわけで、鳩山政権の予算の工面のために&仕事してるパフォーマンスのためにスケープゴートにされてる感がプンプンしますわ。