あずまん狂想曲


都条例の話で東浩紀氏がスネちゃった?ようで。
現実的な戦略として規制推進派と全面対決するだけでは何ら落としどころが無いとか、規制反対派の中にある異論を認めない原理主義的な風潮は議論を深化させない問題があるとか、そういう批判はあります。
そういった批判を踏まえたうえでも、上掲のツイッターでのやりとりは、ちょっと東氏の分が悪いでしょう。


このブログでも以前に少し触れましたが、東氏が話をした猪瀬直樹氏は、そもそも漫画やアニメやゲームを表現の自由の範疇外と思ってる節があるわけで、そういう懸念を持ってる人たちからすれば

まあともかく、みなさんいろいろ意見はあるのかもしれないけど、ワイン片手の猪瀬副知事と「表現規制とかありえんだろ、なんでネットのやつらは騒いでるんだよ、困ったなあ」って会話が交わされたのは事実で、むろん論理的にはぼくは騙されている可能性もあるけどw、現実的には信用していいと思うな。

http://twitter.com/hazuma/status/17053123394


こんなこと書かれてもぜんぜん信用できない。極端な話、「表現規制とかありえんだろ」という言葉を、東氏は「今回の案は、漫画やアニメやゲームなども表現の自由として尊重しており、それらを脅かすつもりはない」という意味で理解したのかもしれないけど、猪瀬氏は「そもそもアニメや漫画やゲーム(あるいはエロを含むそれらの作品)は表現の自由の範疇外なのであって、だからそれらを規制する今回の案は表現の自由に抵触しない」というニュアンスで言っているかもしれないわけで。


この傾向は石原慎太郎都知事こないだの失言にも見て取れるわけだけど、それすらも

そりゃ失言はあるだろうけど、そんなこと言ったらオタクだって失言だらけだって。

http://twitter.com/hazuma/status/17052694493


などとスルーしてる。石原都知事のこの失言は「言い方を間違った」類のものではなく「常日頃から思ってる本音を喋っちゃった」類のものであることは明らかで、それを東京都知事という(市井の一オタクとは比べようも無い)権力の座にいる人が言っているわけです。もちろん本音で何を思っていようがそれこそ彼の内心の自由ですが、それを権力者の立場にいて公に開陳することを問題と思っていないのであれば、彼の政策においてもその本音が反映されるであろうという懸念を多くの人が抱くのではないでしょうか。


つまり、規制推進派はそもそもアニメや漫画やゲームを卑しいものとみなしていて、それらの表現の自由なんてものも尊重するつもりも全然無い、それゆえに規制することに何ら躊躇が無いのではないか、という疑念がある。そのうえで、規制推進派の提出している案では大雑把に規制の範囲を広げようとしているように見えるわけだから、「その改正の目的をハッキリさせるべく条文をもっと厳密にしろ」「でなければ運用の恣意性が残るし表現も萎縮する」という批判が出る。そこで猪瀬氏が規制すべき対象として挙げた具体例が「奥サマは小学生」だったわけだから、「ああこりゃもう作品性なぞ吟味せずにエロそうなもの全て焚書するつもりだな」という印象をもった規制反対派は多いでしょう。そして現に、規制推進しようという都議は論理が通じない人たちくさい。


疑念を深める要素がこれだけたくさんある中で、

猪瀬氏とはむろん例の非実在青少年問題の話も交わした。結局のところ課題はゾーニングだけであり、「規制 対 表現の自由」という対立構図など存在していないことを確認。オタクたちにしたところで(ぼくの知るかぎり)ゾーニングには反対していないわけで、普通に会話が成立するのではないか。

http://twitter.com/hazuma/status/17054581378


などと、(既に規制反対派が何度もツッコんできている)規制推進派の主張の代弁を始めたりしたら、東氏は猪瀬氏に取り込まれたと思う人は少なからず出てきます。もちろん猪瀬氏自身は善良な人柄なのかもしれず、東氏が言うとおりに誠実な意見交換がそこで行なわれたのかもしれない。あるいは猪瀬氏も都政の中の規制推進派役人に踊らされてるだけという可能性もありますけど、上掲のツイッターのやり取りの中でも「少なくとも法的には条文が全てであって、都の役人の意見や解釈等と言うのは裁判では取り扱ってはくれませんし、猪瀬氏が東さんに何を吹き込もうと、都議自公の改正条文が変わるわけではありません」と指摘されてるとおりで、猪瀬氏と和やかに話をできたからってだけで、今回の案についての規制推進派の説明を鵜呑みする態度は楽観的過ぎるでしょう。日本は法治主義であって人治主義ではない、少なくとも建前ではそうなっているのだから、関係者といくら懇意になったとしても、なぜ条文を厳密にしないのかについては常に問い続けていくべきです。


で、東氏は有名人だけあって批判のRTも多く寄せられ、中には罵詈雑言も含まれていたようで、そこは同情しますけど、気分が悪くなったからって

日和るもなにも、ぼくは最初から猪瀬直樹氏には好意的なのです。そして別にオタクの味方ってわけでもないのです。何ヶ月かまえのツイート漁ってください。

http://twitter.com/hazuma/status/17059102337


と開き直るのはどうかと。これじゃ結局「なんだ、あこがれの人に会って和やかに話できたから規制推進派よりに意見を変えて、そのことを批判されて気分が悪くなったから規制反対派を無視することにしたのか」という構図を自ら固定化するだけのような気がするんですけど。