馬鹿鶏


エロゲのdisclaimerが細かいとかなんとか。この話、アニメ「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」において劇中で中学生が購入したとされるエロゲのパッケージ製作にエロゲ各社が協力しているのはどうなのよ問題にも繋がる話だと思うんだけど。
ぶっちゃけ、この手の断り書きには何ら法的義務があるわけじゃない。つか「フィクションの中ならどんな反社会的なことが描かれていても問題はない*1」という前提を共有していれば、わざわざ断り書きを入れる必要すらない。じゃあなんで実際には断り書きを入れてるのかと言うと、その前提を共有しない“外”の人たちに対する応答を試みるため、ということでしょ。


自分も仕事でお客さんに製品やサービスを提供している手前、「disclaimerどうしよっかな〜」ってのにはかなり頻繁に気を遣わされる。「猫と電子レンジ」の話じゃないけれど、その製品やサービスのことを熟知している側からすれば当たり前の前提がお客さんにとっては全く知りもしないことで、その食い違いを是正する努力無しに製品やサービスを提供した結果、お客さんに不利益が生じて怒られる・賠償を求められる、みたいなことは十分にありえる。でもそれは、お客さんだってその前提を予め教えられてさえいればわざわざそんな失敗はしないわけで、前提を共有しなかったことによる不幸な事故。お客さんは失敗して涙目、提供者はその責を問われて涙目、誰も得しない、どうしてこうなった、ああ予め説明さえしておけば、っていうのでdisclaimerが大事になってくるわけ。
だからね、disclaimerってのは、法的責任を避けるための姑息な手段であるかのように言われがちだけど、本当のところ提供する側とされる側の前提を共有する事で不幸な事故を避けましょう、という努力なんだよね。「提供する側としてはこういう前提でやっております」ってシグナルを受け手に向けて発することで誤解を未然に防ごう、そういった誤解を減らすことで将来起こりうる不幸な事故を減らそう、という。もちろん結果的には問題発生時の確かな免責材料にもなるけどもね。


そういう努力無しに商売するのは、法的に問題ないかぎり自由ではある。電子レンジを売るにあたって「生き物を入れないでください」というdisclaimerを付けないのも1つのポリシー。でもその結果、電子レンジの原理を知らないお客さんが猫を乾かそうとして不幸な事故が起きるかもしれず、その件で訴訟になるかもしれないし、訴訟に勝ったとしても世の中からの企業イメージは悪くなるかもしれない。やはり誰も得しない結果になりうるけど、その覚悟があってのことであれば誰も止めない。
前提を共有しない“外”に向かっての応答を試みない、ってのはつまりそういう覚悟なしにはありえないよ、ということ。


エロゲのdisclaimerの話に戻せば、オタクにとってエロゲがフィクションなのは当たり前で、フィクションである以上その中にどのような反社会的描写があろうが問題ないというのも当たり前。でもそれはあくまでも“内”で共有されている価値観でしかなくて、そのような価値観が前提とされていることが“外”から見てわからない。わからないから誤解されうる。その誤解を解こうという試みがエロゲのdisclaimerなのだ、ということ。
「“フィクションの中なら反社会的行為も無問題”という前提は説明するまでもない自明なことだ」「なぜオタクだからといって自身の無害性をアピールすることを強要されなければならないのだ」との反発はまことに正論ですが、その正論が必ずしも万人に通用しないのが現代日本社会なのでして、である以上は、誤解される可能性はどこかで回避したほうがよい。それは「電子レンジの原理を考えれば“生き物を暖めるのに使うべきではない”ことは自明だろ」という主張が万人に通らないのと同じで、その主張が社会の常識として浸透するまでの間は、バカバカしいですが誤解を防ぐ努力を続けたほうがいいだろうということ。そうでなければ問題が起こる可能性を相当に覚悟した上でブッチぎるか。


俺妹の件では、批判にしろ擁護にしろ道義的な問題があるか否かを争点にしていたものが多かったようだけど、以上のことを踏まえると、(道義的な問題ではなくて)“外”とどう応答していくのか、そのポリシーの問題であり、ひいては覚悟の問題なんだよね。
擁護する意見の多くは「フィクションの中のことなんだから、中学生が購入したものとして登場するエロゲのパッケージにエロゲ会社が協力しても問題ないだろ」という主張に集約されると思いますが、ここで問われているのはその価値観自体ではなくて、「その価値観を予め“外”にアナウンスしないことによって起こる誤解やら事故やらについて覚悟があるのか?」ということでしょ。適切なdisclaimerがあれば何ら問題なかったかもしれないのに、今回の件で関係各所、特に協力したエロゲ各社には少なからぬ問い合わせがあっただろうし、この作品を見てエロゲを入手しようとする未成年者が釣りじゃなく出てくる可能性もある。「実際のエロゲ規制も有名無実なのではないか」と“外”から疑念の目を向けられることもあるかもしれない。批判する意見の多くはこれらの事象を想定してか道義的な問題=責任の問題と捉えているようだけど、もちろんそれらの事象について俺妹や協力したエロゲ会社には責任は無い。それはdisclaimerが無かったがゆえに電子レンジで猫を乾かそうとした事故にメーカーが(訴訟に勝ったとして)責任を負わないのと同じ。しかし、確かに責任は無いけれども、でもdisclaimerの手間を省いてそういう事態になりうることへの覚悟はあったのか?ということは問われる。で、聞くところによると公式は「18禁とは明言してないから大丈夫」とか逃げを打ったとか、完全に“内”向きのエクスキューズでしかないので、実際のところはロクな覚悟も無かったんでしょうな。


長々と書いたけど、以上の理由により俺妹のことを道義的・責任の側面から批判するのは不当です。そうではなくて、適切なdisclaimerを出すという最も簡単で堅実で実績ある施策をするだけの賢明さが無く、そうやってツッパるだけの覚悟も無かった、という批判こそが向けられるべき。

*1:それが実在する誰かを誹謗中傷したりするものでない限り。