きりりん氏死亡のお知らせ


新都条例下で、あきそらの重版が停止されることになったとか。当人は具体的な経緯について明言を避けているようですが、出版倫理懇話会で警察キャリアが指定をほのめかしたことによって出版社が萎縮したのでしょうね。


この作品に関しては「こんなエロい内容を青年誌でやるのはけしからん」という意見も少なからずあって、その流れからすれば今回の経緯を喜んでいる人も少なくないだろうと思いますが、前掲のリンク先でも指摘されてるとおり、今回の指定は「近親相姦だから」という理由であって「エロいから」では無いですから、そこに注意が必要です。
もしエロいことを問題視するのであれば、エロさに関する規定を改めることで取り締まれるようにするのが筋であって、現行のエロさの規定では取り締まれないから近親相姦という別口の要件で取り締まるというのは別件逮捕のようなもの。なので、この作品はエロいからけしからんと思ってた人らは、別の根拠・経緯であれ最終的に自分の嫌いな作品が排除されたという結果だけをもって喜んではいけません。


ここでまず何が問題であるかと言えば、指定の権限を条例により付与されている審議会ではなく、治安対策課という(権限が無いはずの)役人どもが指定の可能性をちらつかせて出版社の萎縮に追い込んでいるという経緯そのものです。これって結局、実際の審議会でどういう結論が出されるか待たずとも、先立って治安対策課が「この本が指定されちゃうかもねー」ってコメントするだけで出版社を勝手に自粛させることができる(産業構造上、出版社は自粛せざるを得ない)んだから、治安対策課が実質的な検閲機関として機能してるも同然でしょ。警察キャリアが出版物の生殺与奪を握ってしまっているだなんて、いつのまにか言論統制の真只中に連れて来られてしまった気分。


そしてもう一つの問題点は、指定の基準が雑であること。出版倫理懇話会で言及されたとされる作品の中に「奥サマは小学生」がありますが、この作品は一年前の条例案の際の議論でも話題に上っていて、その時点でも性交描写自体は避けられてるって話だったのに、それを「反倫理的な性交場面」という要件で槍玉に挙げているのだから、各作品の内容をまともに精査しているとは思われません。新条例成立時の付帯決議で慎重な運用が求められていたはずなのにしょっぱなからこの有様ですから、ハナから規制推進派は条例さえ通れば好き放題やるつもりだったんでしょうね。


こういった問題点を踏まえると、ただ無邪気に「わ〜い俺の気に入らない漫画が排除された〜」などと喜んではいられないのがおわかりかと思います。つまり、警察にとって気に入らない作品をロクに精査することなく槍玉に挙げ、審議会に諮る前にその作品に言及することで出版停止に追い込める、警察キャリアはそういう権力を手にしたということです。そこに民意の介在は一切無く、そのときそのときの担当者の胸先三寸で出版できなくなるものが決まってしまう。もし頭のカタい担当者が赴任すれば、それこそ一年前に半ば冗談めいて述べたとおり、超電磁砲だろうがストライクウィッチーズだろうが表現内容の改変を強いられたり販売停止に追い込まれたりすることだってありえるということです。


また、(条例案の時点でも問題視されてましたけど、)近親相姦ってモチーフ自体はアニメや漫画などに限らず、様々な古典や神話や民間伝承などにも現れる、ある意味で普遍的なテーマの1つであるのに、そのテーマを狙い撃ちで規制する妥当性についての疑問もありますね。実際に今回指定がほのめかされたことで、今後は露骨な性描写に及ばないような作品であっても、近親相姦(どころではなく、場合によっては血縁関係者間の恋愛感情を匂わすような描写全般に至るまで)は一切描けないということになるでしょう。成人指定でやればいいとか言う人もいるようですが、成人指定作品の市場は「成人向け作品に求められるような過剰で露骨なエロは描きたくない、でも兄妹間の恋愛は描きたい」という作品の受け皿にはなりえません。少なくともそういうジャンルに属する作品は、今回の一件によって商業出版からは完全に葬られたと見ていいのではないでしょうか。


今できることは少ないかもしれませんが、例えば治安対策課に直接クレームを入れるとか、「付帯決議でOK」とのたまった民主都議に問い合わせするとか、最後まで反対を貫いてくれた会派の都議の方々にこの問題を議会で取り上げてもらえるよう訴えるとか、そういう地道な活動を続けていくしかないですね。